レヴィ=ストロース「レヴィ=ストロース講義」

時々、思い起こすことがある「まだレヴィ=ストロースって生きてるの?」ということだ。答え「まだ生きている」
この本は改訂版だが、平凡社ライブラリー版に寄せてという序文を載せている。このとき2005年、93歳。
いまだに現役というんだから、長く生きるということは大事だと思わせてくれる。

さて、本書はレヴィ=ストロースが来日した際に行った講義録である。この講義自体は1977年に行われているので、このときすでに69歳。とてもそんな年齢とは思えないアグレッシブな話っぷりにに驚かされるばかりだ。
この講義の主旨は、人類学が単なる未開の社会、極論すれば先進国とは難の関係もなさそうな社会文化が、実は現代世界に対して重要なヒントをくれるんだぜ!ということである。哲学を捨てて人類学へ転向し、その人類学から哲学の世界に構造主義という強烈なパンチを浴びせかけたレヴィ=ストロースならではの主張だ。

たとえば、人工授精や体外受精、子宮貸与の問題に対して、我々は社会的に深刻な問題を現在進行形で抱えている。しかしレヴィ=ストロースはアフリカのある未開社会を例に挙げて、ここでならまるで問題にならないという。なぜならその社会では、妻が不妊症を抱えている場合、他の女性に代償を支払って、代わりに子供を産んでもらい、その子供を正式に息子として迎え入れることができるからだ。またナイジェリアでは金持ちの女性は妻をめとることができる。そしてその妻に男性をあてがわせて、生まれた子供は正当な自分の子供として認められるというのである。この他にも、いわゆる一夫一婦制の我々からすると、驚くような家族のありかた、性のありかたがあって、感動すら覚える。
そしてまた我々がこうした一夫一婦制の性のありかたに、いかに従属し束縛されているかに気づかされる。恋愛や人間関係は言うに及ばず、経済活動から文学文化においてまで、こういう思考が、ある意味では無批判にインプリメントされているのだから。

他にも生産性の問題なんかが興味深いところだ。現在、テクノロジーの進歩によって昔に比べるととんでもなく生産性は高まっている。それなのに労働時間は一向に減らない、どころか増加傾向にある。そこにおいても人類学はある種のヒントを与えてくれるだろう、というわけだ。

そのほかにも、日本から学ぶこと、神話とは何か? 未開を開発すべきか否か? といった問題について語っている。当然レヴィ=ストロースのライフワークのようなテーマも絡んでくるので、入門書としても丁度良い。
レヴィ=ストロースはめちゃんこ頭のいい人なので、とにかく言ってることが首尾一貫していて説得力がある。しかも、口語体で書かれて読みやすいので、うんうんうなずきながら楽しめる一冊だ。

質疑応答も要チェック。なにげに質問者の布陣が豪華です。

余談

恋愛の形式が物語の形式、社会の形式と大きく関わっているという話は、「少女革命ウテナ」で脚本の榎戸洋司が掲げていたテーマでもある。