巽孝之「『白鯨』アメリカン・スタディーズ」

値段とページ数が釣り合うのか釣り合わないのか微妙なラインの理想の教室シリーズの一冊。
ご存じメルヴィルの「白鯨」を講義スタイルで語りながら、その影響やアメリカニスムとのつながりを探ってゆくという主旨である。薄いながらも、ぎっしり内容はつまっている。
「白鯨」なんて読んでねーよという人のために、超重要の部分だけの抄訳も載せられているので、安心である。

読んだ人にはおわかりだろうが「白鯨」というのは、とんでもない小説だ。料理人の腕次第で、どんな料理にもなってしまう。しかし、そこは巽せんせー。ただメルヴィルを語るというのではなく、映画版の「白鯨」がどれだけある種のイメージを植え込んでしまったか、怪獣映画の原典との接点、「白鯨」に影響を与えた先行作品の考察、漫画における「白鯨」の表現と縦横無尽である。
もちろん、その雄大で緻密な世界観を肯定的に語るだけでなく、批判的にネオコン的なアメリカニスムをも読み取ってゆく。そして911以降のアメリカを目撃している今こそ、新たに「白鯨」を読む時であると語る。

全般的に難しいことがわかりやすく書いてある本なので、これから「白鯨」に挑むというエイハブな人も、「白鯨」長すぎて……という人にもオススメできる。
少々不満があるとすれば、「白鯨」の百科全書的性質への言及が少ないことか。ただこれ語り出しちゃうと、大変なことになってしまうので、この程度が丁度よいのかもしれない。

余談

最後の方で紹介されているマーク・ジェイコブスンの「ゴジロ」ってのが気になった。
なにやら奇書の香りが漂ってくる。