茂木健一郎「脳内現象」

ようやくここ最近の茂木健一郎に手を出し始めた。
ほとんどの講演を聞いており予習はばっちりだったため、わかるわかるぞ!あれもこれも知ってるぞ!ファースト・ペンギンとかカーネマンの神経経済学とか耳にたこができるほど聞いてるよ!と悪い子になりながら読み進めた。
知っていることが多くとも、やはり一冊の本になっているとまとまりがあってよい。また「小さな神の視点」や「メタ認知ホムンクルス」の詳細は、講演などではつっこんでいなかったため、新鮮な気分で読み進めることができた。

脳科学最大の謎のひとつが「結びつけ問題」である。たとえば色と形は別々のニューロンで情報処理しているにもかかわらず、主観としては同時に立ち現れる。つまりそれは、脳の中で方々に散らばったデータがひとつに合わさって〈私〉という視座になっているという不思議でもある。それを本書では「小さな神の視点」と呼んでいる。

本書のひとつのテーゼは〈私〉という意識とはメタ認知であるということだ。認知している自分を認知できることが、「小さな神の視点」である〈私〉という意識を作り出す。この論法はハイデガー存在論に近いものがある。

脳科学というのはとにかく肝心なことは何もわかっちゃいないというのが現状だ。だから科学書と言うよりは、なんだか現象学の哲学書を読んでいるような気分になってくる。もしかすると茂木健一郎の仮説はことごとく間違っている可能性もある。だとしても前線で脳と向かい合う本書のような本を読むことが無駄だということはないだろう。我々は今を生きているのだから。

脳内現象
脳内現象
posted with amazlet at 05.08.23
茂木 健一郎
NHK出版 (2004/06/24)
ISBN:414091002X