まとめて8冊

ブラスト公論

最初のカラーページを見て、フォント小さい!と思ったら、その後はもっと小さくてビックリした。130ページ程度ではあるが、読み応え的にはその3〜4倍はある。
文字おこしてあるのも編集技術的な意味で興味深いけど、この対談の生を聞いてみたかったなという気もする。読んで納得、楽しい一冊である。

アンドルー・クルミー「ミスター・ミー」

三つのストーリーが互いに互いを参照し合い、もつれながら進むという意味で、フラン・オブライエン『スウィム・トゥー・バーズにて』の趣向に近い。(そういえば最近見た『インセプション』も『スウィム・トゥー・バーズにて』に近かったけど、もうちょっと単純)
ルソーを始めとして、プルーストが登場したり、会話を通してフローベールも間接的に登場したりと文学ネタも多いのだけれども、理論物理と数学を専攻していた著者だけあって、数学パズルやパラドックスもふんだんに盛り込まれている。エピローグで明かされる真相は、思わず『イニシエーション・ラブ』を連想した。

麻耶雄嵩貴族探偵

以前の短編集『メルカトルと美袋のための殺人』に比べるとパワーは落ちてる感じは否めないものの、その独特の「変さ」は衰えるどころか、ますます磨きがかかっている。異常な設定や登場人物ばかりでありながら、しっかりと論理的に解決はなされる。
そしてその論理をひっくり返す趣向(「こうもり」)も見事だ。

巽孝之監修「身体の未来」

高山宏をはじめとして今見ると超豪華メンバーがそろい踏みの身体に関する論考集。
個人的に拾いものと思ったのは、筋肉をもはやマシーンと見立てた鹿野司の論、腕時計をサイボーグの始原とみる永瀬唯の論、円谷プロの怪獣の作り手達をシュールレアリストの末裔であると指摘している神谷僚一の論である。
また長山靖生の技術革新による認識の問題は、マリオ・プラーツが『ムネモシュネ』で論じていた「時代の書跡」に共通するものがある。技術革新が著しい今日においては、重要な論点であろう。
先日、不幸に見舞われた村崎百郎も良い具合に論理的な電波を飛ばしていてよい。合掌。

田切博「キャラクターとは何か」

前半はサーベイ、後半はキャラクタービジネスについて。ちゃんとビジネスモデルとセットでキャラクタービジネスを語っているのは面白いと思った。

菊池良生ハプスブルク帝国の情報メディア革命」

個人的には「情報メディア革命」の方に焦点をあててもらいたかったのだが、「郵便の文化史」というより「郵便の歴史」という趣が強い本。それでも人と人とを結ぶ技術が、もっとも技術革新を促すのだなというのは確信できた。
また現在の郵便制度や、郵便と共に発展してきた新聞を考える上で、ひとつの材料となるかもしれない。

湊かなえ「告白」

映画を見るついでに読了。
新本格的な意味での驚きはないが、構造的にはそこそこ面白い。ただ本書を現代の病理がどうのという社会派的な目線で読むのは、かなり間違っているだろう。
これが流行ったのは『バトルロワイヤル』が流行ったのに近いんじゃなかろうか。読後感はすこぶる似ていた。

金子邦彦「カオスの紡ぐ夢の中で」

円城塔の元ネタを知りたくて、という不純な動機で読んだ。
エッセイ半分小説半分という構成で、小説「進物史観」は物語の流行病とその破綻の仕方が大変興味深かった。これは結構、現実にもあてはまることなんじゃないだろうか。それにしてもこの小説内小説は読んで見たくなるものばかりで困る。ボルヘス的には、これで充分なのかもしれないけれども。
また「進物史観」の章題は色々な小説のパロディになっているのだが、半分以上わかった人は絶対に読むべきだろう。
それにしても円城塔って名字なのね。円城・塔李久って名前なのかと思っていた。