歌野晶午「ブードゥー・チャイルド」

失敗した。もっと早くに読んでおくべきだった。
発表当時の1997年に読んだら、もっと驚いた、というか、ネタに気づきにくかっただろう。

主人公が前世の記憶を持っていて、引き起こる殺人事件にその前世が関わってくる。途中までは完璧にファンタジーとしか思えないきわどさで展開されるものの、そこは本格ミステリ、きっちりオチはつく。
過度に偶然に頼りすぎている感は否めないが、この強引さがまた面白い、と個人的には思う。

粗筋以外のことを書くとどれもネタバレになってしまいそうなので、あえて舞台背景に注目したい。
本書が書かれたのは1997年。主人公がホームページをひらいていたりして、当時のインターネットの状況が思い起こされて面白い。そもそも初っ端のブラウザの画面からして、とてつもなく懐かしい感じがする。
また主人公が検索エンジンで「Voodoo」という単語で検索し9万件が引っかかる。おそらく当時の実際の値を使っているのだろう。主人公は、このヒット数でも結構驚いている。
ちなみに今検索すると2千万件を超える。10年で200倍以上になっているわけだ。

こうして見てみると情報系のテクノロジーを小ネタに使った小説というのは、いかに劣化が激しいかがわかる。今ならまだ読めるけど、もう10年も経ち、当時の状況を知らない人が読んだら、あまりにローテクすぎてチンプンカンプンになってしまうんじゃないだろうか。

実はそれ以外にもテクノロジーに依存しているところがあって、しかも一般化してゆくほど登場人物たちが感じている悲劇を捉えにくくなるだろう。というわけで年を追うごとに実世界との乖離が進み、かつネタに気づきやすくなる可能性があるので、後で読もうと思っている人は、すぐにでも読んだ方がよい。