青木淳悟「四十日と四十夜のメルヘン」

凄い凄いという噂の青木淳悟のデビュー作。表題作「四十日と四十夜のメルヘン」と「クレーターのほとりで」の二編が収められている。
ピンチョンが現れた!と評されてもいるが、それほどピンチョンに詳しいわけではないので、ちょっと比較はできない。雑多な知識をこれでもかと突っ込んでいるのが似ているのか。ぶっ飛んだポストモダンな感じは、もちろん似てるんだけど。

「四十日と四十夜のメルヘン」

私小説のような書き出しで始まり、日記風へと遷移してゆく。しかも日付を追ってゆくと、7/4〜7/7までの四日間が延々と繰り返されている。
主人公のあたりまえの日常、主人公が書いているメルヘン小説、文芸創作教室の先生のデビュー作である「薔薇の名前」のような小説、それらが相互に絡み合いながら繰り返されてゆく。
主人公のためらい、その思考のループが、そのまま小説の構造になっていて、虚構と現実との微妙なつながりを確認する作業は非常に楽しい。バフチンに言及されていたりとニヤリとさせる部分もある。

なんかおしゃれなタイトルね、という気持ちで読み始めると、いきなり迷宮に連れて行かれるので注意!
そういえば主人公の行きつけのスーパーも「メーキュー」であった。

「クレーターのほとりで」

こちらの方は打って変わって、へんてこなSF。
聖書、神話、科学、哲学といった古今東西のテクストをぎゅーっと固めて、シムアースを振りかけたような内容である。とりあえず氷の隕石を落としとけ!みたいな。
読んでいて連想したのは筒井康隆の「虚航船団」で、語りまくることが逆になにも語れていないといった自己矛盾にどんどんと陥ってゆくようなグルーヴ感がたまらない。
真剣に読むと言うより、笑い飛ばしながら読むのが正当な読み方であるようだ。

重いテーマを軽妙なステップでカオスにミックスしてしまうところが、青木淳悟の持ち味なのかもしれない。

四十日と四十夜のメルヘン
青木 淳悟
新潮社 (2005/02/26)
ISBN:4104741019

余談

青木淳悟、超面白いよね! と軽々しく快哉を挙げてしまうのは、ちょっと頭がおかしいんじゃないかと我ながら思ってしまった。