シュテファン・ツヴァイク「ツヴァイク全集」

山口昌男がたしか「病の宇宙誌」でツヴァイクの「アモク」と「チェスの話」の粗筋を紹介していて、それがあまりに面白そうだったので頭の片隅にメモっておいたのが二年前くらい。ようやく全集を二冊借りてきて、「アモク」「目に見えないコレクション」「書痴メンデル」「チェスの話」あたりをつまみ読みした。

やはり一番気に入ったのは「チェスの話」で、これはボルヘスあたりも喜びそうなストーリー。
チェスのチャンピオンと25年間チェスをやったことがない男が闘うという内容。
後者の男の方は、25年間チェスをやってない上に、実際にやった頃は素人レベルだった。なぜそんな男がチャンピオンと闘うことができるのか?
この男、ナチスに捕まり強制収容所に長年監禁されていたのだ。収容所ではとにかくやることがなく、まわりの囚人もやることがなさすぎて次々とねをあげてゆく。そんなある日、男は看守の目を盗み一冊の本を盗み出すことに成功する。娯楽に飢えていた男は、やったとばかりに歓喜にむせぶが、その本はチェスの名人戦棋譜が載っているだけの本だった。
棋譜はa2-a3みたいにアルファベットと数字で書いてある。男はルールくらいは知っていたので、なんとか棋譜を解読することに成功し、それからはひたすら棋譜を暗記することに専念する。収容所には盤や駒の代わりになるものはないので、脳内チェス盤に駒を置いて、名人達のゲームを記憶し再現していったわけだ。
しかしその娯楽も数ヶ月で行き詰まる。完全に暗記してしまったのだ。そこで、なんとか一人だけでチェスの対戦ができないものか、と考え始める。当然、対戦ゲームは相手の思考が読めないから成り立つのであって、自分自身でやれるわけがない。しかし、訓練するうちに、頭の中でプレイヤーを切り分けることができるようになる。
それからは一人で脳内チェスをひたすら繰り返していたのである。
その後、収容所からは助け出されるが、もうチェスのことを考えるのはやめなさいと医者から釘を刺される。
しかし男は自分の腕を試してみたいという欲望にあらがえなかった。そして百戦錬磨のチャンピオンとが闘うことになるのだが……

オチは各人で確かめていただきたい。

「目に見えないコレクション」は盲目の美術コレクターが自慢のコレクションを披露する。けれども、実はお金に困った家族が全部売り払っていて、絵はただの複製だの似よりの紙だった。というような話。

それ以外にも短編をパラパラ読んだのだが、だいたいどの話もストーリーは抜群に面白い。ただ短編なのに冗長でなかなか本題に入らないところが欠点だろうか。

巻の表題作は「アモク」

巻の表題作は「目に見えないコレクション」。一押しは「チェスの話」。

たしかこの本で言及していたはず。「アモク」だけだったかも。