芦辺拓「紅楼夢の殺人」

実は紅楼夢を読んだことなければ、芦辺拓も読んだことがない。というわけで手に取ってみた。

美少女が幻想的なやりくちで次々と殺されてゆく。それに単純に物語自体が非常に面白いので、すらすらと読める。

しかしこの小説の特有の魅力は、というか価値は、ラストに明かされる真実とあいまった一種のミステリ論にある。これはメタ的というか、通好みの趣向なので、すれてない人からすれば「なにを言い出してるのこの人」と思ってしまうかも知れない。
個人的にはこれがあったおかげで、読んでいてよかったなあ、という気分に浸れた。

こういった趣向は、ややもすると物語を破壊してしまう可能性がある。そこは物語にこだわる作者、非常にうまく織り込んでいる。
芦辺拓は後書きにあるスペシャル・インタビューで、(いわゆる東浩紀大塚英志らの)ポストモダン物語消費論を、江戸時代の歌舞伎と観客とのありかたを考えれば何も新しいことなんか言ってないじゃないかと批判している。実は私もこの意見にはかなり賛成である。
そして、こういった実作こそが物語の死に対する否を突きつけているようのだとしたら、これは百の批評家の言葉よりも強烈だ。

余談1

少し違和感を覚えたのが、宝玉が使う「ちゃん」付け。迎春ちゃん、のように女の子らしい名前だといいのだが、湘雲ちゃん、みたいに(日本人からみて)女っぽくない名前に付くと妙な感じだ。

余談2

芦辺拓有栖川有栖は同じ大学、後輩はハードゲイ