坂崎乙郎「終末と幻想」

ピカソ、キリコなどのメジャーどころからヴンダーリッヒ、池田淑人などマイナーどころまで、幻想絵画ならこの人という美術評論家坂崎乙郎のエッセー集。
毒を含まぬ批評ほどつまらぬものはないをモットーに、幻想芸術を極めて観念的な次元から捉えているのが特徴的である。

実は最近気になっているのが鴨居玲という画家。(別に名前が萌えな感じだから、とかそういう理由じゃありません。念のため。)
と思っていたら、本書でも取り上げられていた。作品がカラーとモノクロで2点が紹介されている。まさに「終末と幻想」というテーマにふさわしい画風である。
本書によると、鴨居はレンブラントやカラヴァッジョを師と仰いでいたとのこと。確かに、フランシス・ベーコン、アルヌルフ・ライナーと共通して、カラヴァッジョの「黒い鏡」の系譜としての、絵画のパランプセストを継承しているように思える。黒く塗りつぶされたキャンバスの果てを想像することは恐ろしい。
グリュックスマン「見ることの狂気」 - モナドの方へ

最後に触れられているのが、レアリスムについてである。近代絵画のレアリスムは写真術の発見とともに始まった、と断言している。そこにおいてレアリスムを、ものの解釈に対する誠実さと再定義し、エゴン・シーレの人物描写を近代レアリスムの極と見る。この極が絵画の終末を暗示していながらも、それでもレアリスムにのみ期待しているとまとめている。
ここまで読めば、幻想レアリスムという一見矛盾するような用語にも合点がいくというものだ。幻想芸術は我々の内部で現実として立ち現れるとき、初めてその力を発揮するのである。

「終末と幻想」がAmazonになかったので、以前に読んだ「幻想芸術の世界」をば。
こちらも、なかなかお目にかかれない幻想絵画が満載。