いとうせいこう「ゴドーは待たれながら」

いとうせいこうといえば、深夜番組「虎の門」で実は一番がんばっている人だ。多才な人で、タレントとしてだけでなく、作家としても活躍している。
これまで著作を読んだことはなかったのだが、ローレンス・スターンの「トリストラム・シャンディ」やらレーモン・ルーセルの「アフリカの印象」やらが大好きだと公言しているところからして、いつかは読んでみたいと思っていた。

本書はベケットの「ゴドーを待ちながら」を裏側から描いた戯曲である。「ゴドーを待ちながら」はエストラゴンとヴラジミールのがひたすらにゴドーを待つという話であるが、本書は主人公のゴドーがひたすらに待たれるという話になっている。

「待つ」切実さは理解しやすく普遍的テーマになりやすいが、「待たれる」切実さは「待つ」を前提にしないと理解しずらいような気もする。その分、その切実度は一層高まり、ゴドーの台詞からはどうにもならない閉塞感が伝わってくる。舞台に登場する人物はゴドー一人きり。待たれているのに、決して出て行こうとしない。そもそも出て行くことが不可能でもあるかのように……

ゴドー(Godot)はあからさまに神(God)を連想させる。本書では、その連想は残しつつも、単純にゴドー=神というところに着地せずに、解釈に余白を残している。

広範な資料に裏打ちされながらもペダンティックになっておらず、いとうせいこうらしい軽妙さに満ちているので、苦悩に満ちている作品なのにもかかわらず愉快に読める。ベケットを理解する上でも足がかりになる重要な作品であろう。

とはいえ元ネタの「ゴドーを待ちながら」は先に読んでおく必要がありますよ。

解説は大澤真幸

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