ハイカイザシオン

「加藤郁乎詩集」 - モナドの方へで、書こうと思って忘れていたことを追記。

じつは加藤郁乎の詩を読んでいて思い出したのは殊能将之の「美濃牛」だった。美濃牛の中では句会が開かれ、へんてこりんな俳句が数多く披露されるのだが、加藤郁乎の詩集と比較してみると……

「E=mc2この霧函に優曇華を憑けよう」(えくとぷらすま)
「E=mc2秋の暮」(美濃牛)
「漏斗す用足すトマスアクィナスを丘す」(牧歌メロン)
「アクィナスを嫁に読ませちゃいけません」(美濃牛)

どう考えても通常は俳句に折り込まないであろう単語がかぶっている。まあ偶然かも知れないが、殊能将之のことだからやりかねない。ちなみに「アクィナスを嫁に読ませちゃいけません」の季語は秋茄子だそうである。

もうひとつ思い出したのがウリポのハイカイザシオンという手法だ。ハイカイザシオンとは、通常の定型詩の冗漫な部分を削り取って俳諧の発句のような短詩形に還元する操作*1のことである。レーモン・クノーはステファンヌ・マラルメソネットを圧縮して、「ファヌ・アルメの贅言」という詩を作ってしまった。
牧歌メロンは古今東西の文学をむんずと手玉に取りぎゅーっと圧縮した俳句とも言える。あまりに圧縮率が高いので、展開するのに強大な読み手の脳力を要求するのも仕方あるまい。こうして加藤郁乎は世界文学をハイカイザシオンしてしまったのである。

美濃牛
美濃牛
posted with amazlet at 05.07.21
殊能 将之
講談社 (2003/04)
ISBN:4062737205

余談だが、美濃牛はメルヴィルの「白鯨」と比較すると面白いと思う。むしろ比較しているサイトがないのが不思議なくらい。

*1:風の薔薇5より