キャスリーン・グレゴリー・クライン「女探偵大研究」
ミステリ小説に登場する女探偵をフェミニズム批評で分析するという本。それがし南蛮の探偵小説はあまり読んだことがござらん、なので、分析されている元ネタ本がほとんどわからなかったのだが、むしろ女性の社会的側面との対比で語られていたので、それなりに読めた。
男の探偵と女の探偵の違いとして最大の争点となる部分が、恋愛と結婚の問題である。これまで描かれてきた女探偵は、事件の謎を解くこと以上に恋愛に興味があったようだ。
女探偵の典型的な像は、若く美しく、そして結婚と同時に一線を退く。男の探偵にとっての結婚は背景であるにもかかわらず、女の探偵にとっては物語の根幹に関わるのである。この寿退社現象に著者は疑問を呈している。そしてフェミニズム的に言うと古典的なホームズモデルや探偵小説モデルが、そもそも女性を許容する構造をしていないという結論に達する。
現代の日本のミステリではどうだろうか?
現代日本の女探偵と言われても、哀川潤と殊能将之のアノ人*1しか思い出せないくらいボキャブラリが貧困なのだが、本書と比較すると結構面白いかも知れない。
特に殊能将之のアノ人は本書の疑問部分に、極めてひねくれた形で応えているようにも思える。
もうひとつ、本書を逆に考えると、男の探偵がいわゆる「独身者」*2であるということだ。ホームズ・ワトソンモデルが極めてホモ・ソーシャル的なことも、ヴァン・ダインの20則に恋愛禁止事項があるのも、この現象に拍車をかけている。本格ミステリにおいて恋愛要素は不純物でしかないということだ。
そう考えると、男女の探偵を別々に考察するよりも、包括的に論じることが今後は重要になってくるのではないだろうか。