円城塔「オブ・ザ・ベースボール」

表題作の方はそれほど感心しなかったんだけど「つぎの著者につづく」は自分の関心領域と9割方かぶっていて吹いた。
ボルヘスの「ドンキホーテの作者、ピエール・メナール」をメインテーマとしておきつつも、作風としてはジョルジュ・ペレックに近い。過剰なまでの知識のひけらかしと、批評と自己言及がないまぜになって、異様な言語空間を作り出している。そっち系の人にはたまらない内容だ。
文學界に掲載時はなかった註が付されることによって、メタデータベース小説という輪郭がぐっと浮かび上がっている。

書き手である主人公は、自分の作品がリチャード・ジェイムス(通称R氏)という作家の模倣ではないかと指摘されたことから、R氏とその作品について探ってゆくというストーリー。しかし考察の中で飛び出すなにげない用語も、後ろの註からわかるように更なる作品へと繋がっていて、さながら言葉の迷宮に迷い込んだかのような錯覚に陥る。そして何かを書くということが、何かを参照する、あるいは何かを偽るということであるということを暴いてゆく。
註も「このへんを読んでおかないと、俺の作品にはついてこれないぜ!」とばかりに挑戦的。本編も含めて、円城塔の趣味がよくわかる作品である。

ちなみに自分は「つぎの著者につづく」そのものがR氏の作品であると想像をしながら読んでいたんだけど、ひねくれてるかなあ。
それにしても、こういう作風をまっとうに評価してくれる土壌は、日本じゃSF畑しかないんですかねえ……

余談1

リチャード・ジェイムスってどこからきているんだろう。エイフェックス・ツインとは思えないんだけれども……

余談2

ライプニッツの「結合法論」の完訳読みたいですね!