バイリントン・J・ベイリー「ロボットの魂」

誰の命令にも従わない自由意志を持つロボットが主人公という奇異な設定でありながら、物語はわりとシンプル。それだけに主人公の苦悩に集中しながら読み進めることができた。

ロボットとはいえ、親のもとから巣立って自立し、さまざまな経験をし、死や性に関する新たな感覚を獲得してゆく。そのさまはまさに人間の人生そのものだ。
SF的に見ても面白いことは確かなのだが、典型的な成長物語をロボットに置き換えることによって、人生で経験しうる問題を、ロボットを通した哲学に写像しているという点では、完全に哲学小説ともいえる。
また終盤では、父と子の対立と和解、人間をどうやって超克してゆくかなど、極めてユダヤキリスト教的なテーマが描かれてゆく。SFに詳しくない人でもそちらの方に興味があれば納得がゆく物語になっていて、そこから生まれる感動はひとしおだ。

SF、ファンタジー、ロボットというガジェットを使っておきながらも、どこか西洋思想の源流を感じさせる。それは旧来的な物語をうまくSFに翻訳している好例と言えるだろう。

ロボットの魂 (創元SF文庫)
バリントン・J. ベイリー Barrington J. Bayley 大森 望
東京創元社 (1993/09)
ISBN:4488697046