ダニロ・キシュ「死者の百科事典」
旅先で訪れた図書館で、世界中のあらゆる無名の死者の生涯を記録した書物を見出し読み耽るという不思議な表題作をはじめ、音楽的手法、絵画的手法、映画的手法と、自在に変化するスタイルで描かれた、どれもが死と愛をテーマとする九つの物語。
ということで、いかにもわたし好みな感じがしたので読んでみたのだが、結論から言うと、いまいち乗り切れなかった。
雰囲気としてはボルヘスの歴史もののような感じだろうか。短いなかにギュッと情報がつまっていて、洗練された文体で綴られている。
個人的に乗り切れなかったのは、恐らく幻想味が突き抜けていないのが原因だと思われる。ダニロ・キシュは現実を写像するという意味でリアリズム的なところがあり、そこが馴染めなかった。
リアリズム的な部分よりも、奇想的なアイデアがもっと盛り込まれていればはまれていたに違いない。ただ、これは読む人それぞれの好みもあるだろう。
この作者はレーモン・クノーの「文体練習」をセルビア語に翻訳していたりして、ウリポ的な親和性があったりする。ただし、のちに題材が陳腐であると、決別したらしいが。