オルダス・ハックスリー「すばらしい新世界」

ちょっとした必要性があって読んだ。

まず、世界国家の中心地であるロンドンで、人間の人工孵化の様子が懇切丁寧に説明される。専門用語が乱舞するその冒頭は、まるで映画『攻殻機動隊』やイーガンの『ディアスポラ』を思い起こさせる。
この世界では胎児の自分に与える酸素量をコントロールすることで、知的・運動能力を抑制した子供を作っている。アルファ階級〜エプシロン階級まで、生まれながらにして優劣が決められるのである。

読み進める内に、この世界での神(ゴッド)という言葉はフォードという言葉に置き換わっていることに気付く。工業社会頂点に達し、テクノクラートによってコントロールされているということを、この一語が教えてくれるのだ。

低い階級はただ単純労働だけをこなし、労働による苦痛はソーマという麻薬のような酒のようなもので癒される。高い階級の人間はクリエイティブな仕事に専念している。

なぜこのような社会を作ったのか?それが後半明らかにされる。壮大な社会実験の結果、この階級社会こそが能力のある人間にとってもない人間にとっても最大多数の幸福をもたらすことがわかった、というのである。
ここで語られていることは事実なのだろうか? 事実かもしれない。
ここでの生活は幸福なのだろうか? 幸福なのかもしれない。
ここまで満たされていて、それでも不幸になる自由を望むのか……?

いわゆるアンチユートピア小説だが、明確な善悪の基準は描写されない。それは読んだ各人が判断することだろう。
また登場人物の名前にもマルクストロツキーやらでてきたり、資本主義の延長に書かれているところが、今読むと皮肉が効いている。
古典ではあるが、恐ろしくも素晴らしい新世界の物語である。