クリストファー・プリースト「限りなき夏」

いわずとしれた「未来の文学」シリーズ。
プリーストの魅力はいくつかあって
1.日常と地続きとなってはいるが超自然的でファンタジックなイメージ
2.スペクタクルな描写
3.ミステリ的な驚き
などがあげられるだろう。個人的には、2と3が理由でプリーストを読み続けている。今回は短編集ということもあって、3のミステリ的なワンダーはかなり控えめ。それと反比例するように1のファンタジックな魅力が全面に押し出されている。プリーストを1の要因で読んでいる人は必読だ。

ちなみに今回、読んでいてちょっとわかりづらいと感じてしまった。それはプリースト独特の対象描写の文体のためだと思われる。普通のエンターテイメント作家だったら物語や登場人物、風景などの描写、その輪郭をなぞるようにして描き出すだろう。しかしプリーストの場合は点描のように、ぼんやりとした状態からだんだんとハッキリさせてゆくようなかたちで描いてゆく。そのため序盤は想像力を要求されるし、慣れも必要だ。長編だと読んでいるうちにだんだん慣れてくるんだけど、短編だと慣れる前に終わってしまったりする。
そういう原因もあるせいか、個人的には夢幻群島シリーズはいまいちノリきれなかった。

逆にその文体がうまく作用しているのが、表題作の「限りなき夏」。凍結した蜃気楼のごときイメージがプリーストの文体と見事にマッチして、その美しさにめまいすら感じた。といっても大げさではないだろう。
全体を通して読み取れたのは、針の先でとどまっているボールのような特異点状態が、瞬時に崩壊していくという感じだ。時間と空間がないまぜになって変転してゆき、再び特異点が訪れる。そして限りなき夏はいつまでも続くのだ。