ジェラール・ジュネット「フィクションとディクション」

言わずと知れた文学理論の巨人、ジェラール・ジュネットの小冊。文学とはなにかという問題から真っ向から対決した、薄いながらもかなり濃い内容がつまった一冊だ。

ジュネットは文学をフィクションとディクションという形に分類する。フィクション、つまり虚構性を孕むものはその現実からの飛躍故に文学となる。一方ディクション、つまりテクストの形式によって文学となる詩のようなものがある。
この二つの軸を中心にさまざまな面白い論議が展開されてゆく。
たとえば言語は虚構に奉仕するときに創造者となるだとか、ミメーシスを虚構と考えてみるだとか、虚構に真も偽もないゆえに芸術になるだとか……詩的な発想と論理的なモデルがアンサンブルを奏でるのがジュネットの真骨頂だ。

そして複雑な思考を巡らしてゆくのだが、結局は元々の主題に素直に立ち戻る。芸術としての文学とは、フィクションであるということと、ディクションの形式という軸によってしか決めようがない。文章のあらゆる細部に神は宿るのである。

贈っていただいたid:hazy-moonに感謝。