茂木健一郎「脳と創造性」

脳科学者という立場から、創造性というこれまで分析的に語られてこなかった領域に迫る一冊。講演を全部聴いた立場から言うと東京芸大での美術解剖学の講義でやってきたことがベースとなっているようだ。

文脈主義とクオリア原理主義セレンディピティ、偶有性(コンティンジェンシー)……昨今の気になるテーマを思いつくままフロー状態で書いたらしい。芸大の講義で、ああでもないこうでもないと語っていたことが、見事にまとまっていて、読んでいて気持ちがよかった。

自分は茂木健一郎に関してかなり読んだり聴いたりしており、そういう意味では文脈にまみれて本書を読んだことになる。しかし落ち着いてクオリア原理主義的に見返してみると、本書は変な本だ。最新の研究成果の報告的な部分を抜かして、著者自身の主張だけを読んでいくと一層変さが際だつだろう。科学でもなければ哲学でもない、細分化されていない思考の書と言えばよいだろうか。
もし、茂木健一郎について何も知らない人がいたなら、是非ともいきなり本書を読んでみて欲しい。すごく変な感じがすると思う。(専門的なタームが説明なし使われてたりするので、少々つらいかもしれないが)


また本書の最後で、(茂木健一郎は)自分自身がチューリング・マシンでないことを確信していると書いている。クオリア帰納的計算に還元できないということだろうが、個人的には計算主義に肩入れしたい、という直感がある。
むしろ脳はチューリング・マシンだ、という前提から考えたほうが何かと面白いような気がするからだ。でも、これは科学者的というよりは小説家的な発想なのかも。

余談1

フロー状態というのは心理学者のチクセントミハイの用語らしい。結構有名な人のようだが、この世には変な名前の人がたくさんいるんだなあと思いました。

余談2

まだ「脳と仮想」を読んでいないのでアレなのだが、本書で(たぶん)初めて「ゲーム脳」を名指しで批判している。やっぱり講演会とかで必ず質問されたのが頭にきたのだろうか。
とにかく脳のことはほとんどわかっていないというのが実情なので、民間心理学、民間脳科学に気をつけましょう、ということですな。