J・G・バラード「クラッシュ」

自動車の多重衝突事故が超スローモーションとして描写され、それが性的なイメージとマッピングされる。ストーリーなどより、その奇妙な照応が緻密な筆致で執拗に描かれることに戦慄するだろう。
SFでもなんでもないストーリーではあるのだが、クラッシュシーンの文体はサイバーパンクニューウェーブ小説のそれそのもの。世界が歪んでゆく異様な快楽が味わえる。

この小説、主人公はバラード本人がモデル。妻は当時のガールフレンドがモデルとのことだが、本名クレアでの登場を嫌がったためキャサリンになったとのこと。たしかにこんな小説に実名登場させられるのはイヤだよ……