2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

東京都美術館「フェルメール展」

まず最初に書いておく。自分にとってフェルメールは特別好きな画家ではないし、見終わった後もその印象は変わっていない。カメラ・オブスクラを用いたエポックメイカーとしては尊敬しているが、絵の構図や人物の表情などがそれほど好きになれないのだ。 それ…

ジョン・バース「旅路の果て」

――ある意味で、ぼく、ジェイコブ・ホーナーだ。 こんな痺れる一節で始まる、アメリカ・ポストモダン文学の名作。文体の格好良さは訳者によるところも大きいのかもしれないが、やはりポストモダンらしいひねくれた鋭さを持っている。内容は個人的にそんなに好…

川又千秋「幻詩狩り」

一篇の詩が世界を変革する。シュルレアリスム文学をネタに使った言語SF。ハードSF的なガジェットはほとんどないので、SFというよりはある種のファンタジーといったほうが的確だろう。シュルレアリスム運動に関わった人たちの不可解な死の謎をからめて物語は…

鈴木謙介「カーニヴァル化する社会」

あまり社会学系は読まないんだけれども、いつもpodcastでLifeを聞いているので、一度くらいはチャーリーの本を読んでみるかと手に取ってみた。比較的わかりやすい文章で、ぐんぐん読ませるし、主張も論理も基本的には納得いくものであった。若手であるという…

イアン・スチュアート「自然の中に隠された数学」

数学書というよりは数学的エッセイ。自然の中に存在するパターンと、アンチパターン(対称性の破れ)をテーマに、難しい論議は一切抜きにした啓蒙書的な感じだろうか。数式とかはまったくでてこず、専門的な論議は巧みなアナロジーで見事に説明している。ま…

中沢新一「はじまりのレーニン」

あらゆる予備知識と先入観を捨てて読んでくださいとの前書きから始まる。もともと予備知識も先入観もなかった自分としては、多少の警戒心だけを持って読むことにした。よく笑うレーニンというのを軸に、序盤こそ歴史的な背景やら思想やらに裏打ちしながら書…

I・A・リチャーズ「実践批評」

ニュークリティシズムの代表選手の一人リチャーズによる、実践的な批評をするための指南書。前半はリチャーズが学生に書かせた無記名の詩の批評であり、後半はその分析になっている。本書で追求されるニュークリティシズムの重要な思想が二つの誤謬説だ。 ひ…

サーセン日記

ここ最近の気温の急激な変化に体調がいまいちで、まとまった文章が書けない状況が続いております。 とりあえず読んではいるけどエントリーを書いてない本一覧を書いておく。 川又千秋「幻詩狩り」 円城塔「Boy's Surface」 マリー=ロール・ライアン「可能世…

クリストファー・ノーラン「ダークナイト」

悪い評判を一切聞かない珍しい映画。所詮勧善懲悪のアクション映画だろ?と斜に構えて見に行ったんだけれども、予想を上回る傑作だった。メメントの監督だし外れることはないだろうとは思ってはいたけど、脚本・演出ともにここまで作り込まれているとは!個…

東京国立博物館「対決−巨匠たちの日本美術」

運慶vs快慶に始まり、応挙vs芦雪、若冲vs蕭白といった日本画の巨匠達の、それも代表作とも言える作品ばかりを集めた夢の対決。 特に第三室、第四室は素晴らしかった。個人的には群仙図屏風などをはじめ、二度目の作品も多かったのだけれども、それでも鑑賞時…

押井守「スカイクロラ」

若者を対象にしているということで、中高生の気持ちで見た。ちなみに原作は読んでいないし、できるだけ予備知識なしで挑んだ。決して視線を交わそうとしない、人形のような登場人物。そして人間関係の気持ち悪いこと悪いこと。キャラデザの不気味さもあいま…