レーモン・クノー「青い花」

スゴイ!でも絶版! 夢と歴史(=物語)をテーマにした壮大な実験的な小説である。

本書にはオージュ公爵とシドロランという二人の主人公がいる。
シドロランのほうは現代(と言っても1960年代)のパリらしきところで、河船に乗って暮らしている。
一方、オージュ公爵はしゃべる馬を引き連れて、始めは13世紀、15世紀、17世紀とどんどん時間旅行をしつつ最後は現代にたどり着く。何を言っているかわからないと思うが、読んでいるこっちもわけがわからない。別にタイムスリップなどというギミックが用意されているわけでもなく、なんの説明もなしに時間軸を飛び越えてゆくのである。

二人の関係は胡蝶の夢形式になっていて、片一方が眠るともう片一方が目覚めて語り出すという形式をとっている。普通、この形式でやるなら切り替わるたびに章を切り分けそうなものだが、シームレスにそれをやってしまう。はじめこそ「××は眠りについた」で次の行から別始点と、わかりやすくなっているものの、中盤以降は何の脈絡もなく主人公と時間が切り替わっていて、読んでいるこちらもついて行くのが精一杯だ。
しかも二人は少し情報を共有しているようで、オージュ公爵はその時代にないはずの言葉を使ったりして、他から突っ込まれたりする。また二つの世界にわずかなシンクロがあり、それが読み手をいっそう混乱させる。
というより人物や時間という視点を切り分ける境界がどんどん曖昧になってゆき、小説そのものを解体してゆく、と言った方がよいだろうか。
いつの間にか主人公と時代がジャンプするという感覚は非常に面白い。気付くと変わってたりするので、何度も読み返さなくてはならず、時間もかかってしまう。面倒なスタイルではあるけれども、コミカルな調子で飽きさせないのがクノーの手腕だ。ぜひご一読を。

絶版で入手困難なので、図書館などをあたって探すなどしてください。