アラン・ムーア「ウォッチメン」

映画版「ウォッチメン」を見て、これは批評に困ると腕組みしてしまった。褒めるにしても貶すにしても斜めから見るにしても、なんだか言葉にしづらい。とりあえず傑作と称されている原作コミックを読んでみなければと、ちょっと値段にビビリつつも購入した。

読んでみた結果、映画版はコミック的表現の移植と言うことに関しては、かなり成功していることがわかった。原作は重層的で難解な作品だが、それをうまく分かりやすい形で提供している。映画を見たおかげで、すんなりと作品世界に入っていけたのは事実だ。おそらく初めて触れるのがコミック版だったら、最低限の理解をするにも再読、再再読は必要だったかもしれない。

本作は、特異なキャラクター達の対立に「正義とは何か?」という葛藤を織り込んだ傑作である。それに寄与しているのが、コミックならではの表現と、文学的表現なのだが、それを見当するために映画版とコミック版の違いを確認してみたい。それは大きく以下の二点になるだろう。

・ラストにでてくる最終兵器?の改変
・文学的表現の削減

ラストの改変は、やはり妥当だったんじゃないかと思う。なぜなら原作の怪物は一見ヴィジュアルにおこしてみたくはなる要素ではあるが、その正体はほとんど観念的存在であり、どちらかというと文学的な表現で記述されているからだ。それはさながら夢の中で影響を与えるクトゥルーのようである。

もう一つの改変点である文学的表現であるが、これは作中作として登場する「黒の船」という裏の旋律がカットされている点と、オジマンディアスの過去と一人語りがかなり短縮されている点だ。これも映画にもってくるのは難しいだろう。アクション・エンターテイメントとして組み込むには、長くつまらなくなるおそれがある。
しかし、この二つの文学的要素が「ウォッチメン」という作品に長く影を落とし、重厚な味わいを醸し出していることは間違いない。故に、映画版を入門編として、そこからコミック版に手を出すというのがオススメだ。

ちなみに読み終わるのに4時間以上かかる。文字が小さいのがやや難だけど、フルカラーだし、背景の看板にまでぎっしりつまった情報に驚かされる。アラン・ムーアの原作脚本も一部載っていて、これまたとんでもない密度を持っていて度肝を抜かれた。
ちょっと高いと思うかもしれないが、値段分の価値は間違いなくある一冊だ。いま買っておかないと、また絶版で入手困難になっちゃうよ!