セルゲイ・パラジャーノフ「ざくろの色」

18世紀アルメニアの詩人、サヤト・ノヴァの生涯にオマージュを捧げた映像詩。
生涯というか、ある種のイニシエーションの段階のような章立てで進む。物語も映像も象徴的であり、明確なストーリーは語られない。そこはかとなく読み解くことは可能だが、その真意に到達するにはかなりの知識を要するだろう。
そういう意味でも、一連のシークエンスは従来の映画と言う枠組みよりは、錬金術の図像を思い起こさせるものであった。またその色彩感覚と画面構成はカルロ・クリヴェッリの絵画を連想させた。
見終わったときの満腹感たるや、一生分の映像を見たという感じだ。

アルメニアは古くからのキリスト教国。そのせいかタイトルにもある「ざくろ」を中心に、キリスト教的に重要とおぼわしきシンボルがたくさんでてくる。それらの意味をイメージシンボル辞典などで調べながら見ると面白いかもしれない。
ざくろで言うなら、豊穣、聖性、和合、勝利、自己充足の象徴である。また、その鮮やかな赤の果汁が、明らかに血(おそらくはキリストの血)として描かれているシーンが多数あったりする。

面倒なことはさておき、その美しき映像美に酩酊するだけでも価値があるだろう。どれだけ下準備して、何度リテイクしたのだろうと思わせるほどに一分の隙もない動き。一種の真空恐怖とも言うべき、埋め尽くされた画面。そこでは人間は人間というよりアンドロイドのように振る舞う。
かえってシンボルには惑わされない空っぽの気持ちで見た方が、そこからいくつものイメージを汲み取ることができるかもしれない。