ホルヘ・ルイス・ボルヘス「闇を讃えて」

ボルヘス第五作目の詩集である。詩集といっても、超短編のようなものまで含んでいて、物語的にも面白いものも多い。もっともこれは訳文だと押韻もリズムも消えてしまうからかもしれないが。

闇と鏡の孕む永遠性が、本作品の根底にある。これには迷宮だの書物だのも含まれ、いかにもボルヘスらしい語られ方で描写されている。
美しい言葉で綴られた詩に、ふと挿入される

蔵書を配置する行為は 無言で慎ましやかな 批評の技を行使することだ

こんな言葉が、深い感銘を与えてくれる。
短編的なものでは「民族誌学者」「彼の終わりと彼の始まり」あたりが面白い。雰囲気としては「ブストス=ドメックのクロニクル」のような哲学的な物語だ。

ボルヘスは「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」の中で「交配と鏡は恐ろしい――(中略)――宇宙を増殖し、拡散させるから」と書いている。寺山修司は「盲人書簡」の中でそれを引用しつつも、闇はすべてのものを無限に増殖させると語っている。
本作はボルヘスが盲目になってから編まれた作品であり、本作のテーマは闇と鏡、その永遠性である。「闇を讃えて」とはなんと意味深なタイトルであることだろう。