イアン・スチュアート「自然の中に隠された数学」

数学書というよりは数学的エッセイ。自然の中に存在するパターンと、アンチパターン(対称性の破れ)をテーマに、難しい論議は一切抜きにした啓蒙書的な感じだろうか。数式とかはまったくでてこず、専門的な論議は巧みなアナロジーで見事に説明している。

まずはプロローグのSF小説のような仮想世界への案内が、数学へ満ちている世界への導入となっている。この世界の形態、あるいは運動のなかに、興味深いパターンが見られるということの準備がここで整うだろう。

そこからは面白い個々の事例がリストアップされてゆく。中には結構知らないこともあって楽しめた。
たとえばこれまで進化論では説明しにくいとされてきた眼の進化が、コンピュータ・シミュレーションによってモデル化できたこと。他には動物の歩行に対称性がない(右半身と左半身を別々に動かしている)のはなぜなのかという話だ。そしてこれらの話はすべてカオスという用語に繋がってゆく。
個人的に興味深かったのは、対称性が破れる例としてあげられていたBZ反応というものだ。youtubeでいくつか見ることができるけど、これがCGでなく現実の化学反応として起きるというのだから不思議である。

啓蒙的意味合いが強い本なので、各分野のさわりだけが書いてあって、突っ込んだことや証明などは書いていない。内容をがっつり学びたいという人は、ここに登場した用語を自分なりに探ってゆけばよいだろう。
自分的には同著者による「カオス的世界像」に進もうと思っている。