I・A・リチャーズ「実践批評」

ニュークリティシズムの代表選手の一人リチャーズによる、実践的な批評をするための指南書。前半はリチャーズが学生に書かせた無記名の詩の批評であり、後半はその分析になっている。

本書で追求されるニュークリティシズムの重要な思想が二つの誤謬説だ。
ひとつは意図の誤謬。これは作者の意図に引きずられて作品を評価してはいけないということ。
もうひとつが感情の誤謬。これは作品が読者に与える感情の効果を評価に影響させてはいけないということだ。
とにかく余計な情報は一切排除し、テクストとガチで向かい合って精読をするというスタンスである。

まずリチャーズは学生達に作者名を伏せた詩を見せ、それを無記名のかたちで批評させる。無記名の理由は率直な意見を言ってもらうためとしているが、もうひとつの重要な理由はリチャーズの行ういわばメタ批評をニュークリティシズム的に行うためだろう。学生とはいえ、誰が書いたかという意図に引きずられないためと考えるのが妥当だ。そこまで徹底しているところが面白い。

ニュークリティシズムは旧来の古典的な批評であるナイーブな印象批評を批判する形で生まれたが、その後の批評理論の発展により、吸収合併される形でその名前は消えていった。本書のサブタイトルには英語教育とあるが、要するに国語教育において、基本的な読みを提示した功績は大きい。

つまるところ本書で語られていることは「音楽を聴くなら静かな部屋で」ということだ。良く読むにはまずそれが必要だという単純な話なのだが、これは意外に実践されていない。もちろんノイズのない部屋などないのだから、これは不可能だという意見もあるだろうが、ニュークリティシズムが示した基本的な指標をまず実践することは大切だ。
ああだこうだ批評理論をこね繰り返す前に、基本に返る意味でも冷静になって本書を読んでみてほしい。

余談

顔文字
I・A・リ