アンナ・カヴァン「氷」

美しく硬質な文体で描かれる世界は、ゆっくりと氷に覆われつつあった。そんな世界崩壊の兆しと、少女への憧憬、そのイメージが繰り返し繰り返しスパイラルを描きながら収縮してゆく黙示録。

序盤こそ、オールディスの解説にあるようにキリコの「エブドメロス」に似ている。観念の様相と廃墟の描かれ方、あの孤独の中で酩酊してゆく感じが、味わい的には近いと言えるだろう。
あくまでヴィジュアルにこだわる都市の情景と対比されるように、少女は一人の人間と言うよりはテクスト的存在として、なにかのシンボルであるかのように扱われる。21歳にもかかわらず「少女」と呼ばれつづけるアルビノの存在は、ツンデレとひとことでは言ってしまえない神秘をもっている。
繰り返し現れては消える幻のような少女を、いかなる存在として捉えればよいのか? そこには読者それぞれの何かしらの思いが投影されるように描かれているとしか思えない。

最初はセカイ系っぽい感じで迫っておいて、中盤は少しずれてゆく。このまま違う方向へいくのかと思ったら、わりとそのままセカイ系のオチだった。個人的にはもうちょっと違う終着点が待っていると期待していたので、そこは少々残念なところ。

それでも冷たいモノクロームの世界を描き出す筆致には度し難い魅力がある。これよりも「一般的でない」と言われている他の短編なども読んでみたいところだ。


キリコの絵画世界をそのまま小説にした作品。