正木晃「知の教科書 密教」

密教の全体像を、とりあえず把握できる一冊。わかりやすい入門書はこれまであまりなかったようで、とりあえずここから読み始めるというのは正解だったようだ。
密教とは何か?という根本的なことから、話題のチベット、その密教の宗教的政治的背景もザッとではあるが紹介されているので、現在的な基礎知識を身につけるにはもってこいの内容だ。

前半は歴史的背景と理論で、後半は儀式的な話に突入するためやや魔術めいてくる。密教という言葉の響きに、哲学的な理論よりも、こういう神秘的な面を感じ取る人も多いことだろう。

いくつか面白いポイントがあると思われるが、後期密教が性的な問題を抱えていたという点が挙げられる。別に邪教的(立川流とか)な興味ではなく、健全な性的欲求をあえて押さえつけそれを宗教的悟りへ昇華させるというプロセスを理論的に導入しているというところが気になるのだ。もっともこれはキリスト教などでも言えることだろうが、性的側面をひた隠しにせず、正面からぶつかっていって回答を求めようとしているところに密教の奥深さを感じた。

また虚空蔵求聞持法を紹介するところで、ギリシャ以来の記憶術やネオプラトニスムに触れているところも目配りがきいている。スピノザライプニッツ、そしてフランセス・イェイツの名前がでてくるところも流石だ。

それほど厚い本ではないが、筆者の知識をわかりやすく凝縮していて大変好感が持てた。密教寺院ガイド、ブックガイドも充実しているところもありがたい。
次は「異形の王権」でも読もうか。


余談1

チベット密教の中心であり、ダライラマを総帥とするゲルク派は大変戒律が厳しく、ゲルク派の僧侶は生涯童貞を貫き通さなければならないらしい。
また超能力を使うと、それが人助けのためであったとしても破門されるとのこと。

余談2

虚空蔵って本当にアカシックレコードだったのか。てっきりシュタイナーが勝手に名付けたのかと思ったら、ちゃんとサンスクリット語でした。