ジェシカ・ユー「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」

アウトサイダーアート界でも、もっとも有名でもっとも謎に満ちたヘンリー・ダーガーのドキュメント映画。
彼が数十年にわたって人知れず記された超大作絵巻「非現実の王国」と、晩年にものされた自伝、そしてダーガーを知る者たちのインタビューとが渾然一体となって、もうひとつの「非現実の王国」が展開される。
ちょい不気味で愛らしいキャラクタたちが、アニメーションするところも見所だが、ダーガーという人物を多角的に見れて興味深い。

終盤、「非現実の王国」を発見したアパートの住人のひとりが、その驚きと賞賛の言葉をダーガーにぶつけると、彼は一言「手遅れだよ」とつぶやく。なんとも意味深で、不可解で、まさにこの映画をまとめる眼目と言えるだろう。

アウトサイダー・アートには、好奇心から覗いてはみたいが、一皮めくると魔物が潜んでいるかのような謎がある。ダーガーの人生もまた、そのような不可解な闇に閉ざされたままだ。