佐藤亜紀「小説のストラテジー」

博識な作家で知られる佐藤亜紀の小説論。早稲田大学の講義でつかったものをまとめたということで、しかも学者でなく作家が書いたものであることからしても口語調のライトなものを想像していたのだが、どちらかというと硬く重厚な内容にまず驚かされた。論理的かつ明確であり、大変刺激的な内容になっている。

文学だけでなく、哲学、絵画、映画などにも話題をひろげるバラエティさもあって、飽きさせない。
いわゆる批評理論的な話も飛び出すんだけれども、抽象的な論議ではなく具体的に作品を使って論証しているのでわかりやすい。というより、この論理展開やテーマの選択の仕方から著者の個性のようなものが伝わってくるから不思議だ。論議としては普遍的なストラテジーを展開しているにもかかわらずだ。

なので佐藤亜紀がどのような小説を書いている人なのかを知っていないと、もしかしたら読んでいてしっくりこないかもしれない。なぜここでこの理論がでてくるのか、なぜユルスナールナボコフ笙野頼子という作家をとりあげるのかという文脈が上手く飲み込めないだろう。
(自分も「鏡の影」くらいしか読んでいないので、偉そうなことは言えないんだけど……)

最後まで読み通すと佐藤亜紀という作家の決意というか潔さのようなものを感じられて、大変すがすがしい気分になった。人文書を読んで爽快というのも変なのだが、小説や文学というものに対する真摯な姿勢がヒシヒシと感じられる本なのである。なので佐藤亜紀の小説を読んだことのある人は、ジャンルとして興味が無くても、手に取ってみるとよいだろう。

逆に言うと、佐藤亜紀を知らない、好きではないという人にはオススメできない。