乙一「The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day」

ジョジョが大好きな乙一による、第四部の渾身のノベライズ。
この値段で、この造本。そして飛び出す挿絵。もう読まなくてもいいから買っておけというくらいのできである。

ジョジョ特集のユリイカを読んだときも思ったのだけど、とかくジョジョについて語るのは(二次創作を含め)難しい。
批評というのは、それを読む以前と以後を冷静に比較できることが前提となる。しかし、乙一と同世代の自分くらいの年齢の人間にとってジョジョは母国語と化しており、それを抜きにして何かを語るということは不可能なのだ。だから乙一が五年もかけざるをえなかったというのは痛いほどよく分かる。同時に、その愛ゆえに、ノベライズを書きたいというのもよくわかるのだ。
だから批判的に、あるいは冷静にジョジョをノベライズするなんてことは不可能ということになる。そうなると下手に批評家ぶって斜に構えるのではなく、とにかくジョジョが好きなんだぜ!という愛を全面に押し出した方がよくて、本書はそういう作品である。だから本書がよくできた同人誌という評価は、至極もっともだ。

そういう背景を考慮した上で言わせてもらうと、本作品は非常に良くできている。
熱烈なファン視線から見たマニアックなジョジョエッセンスを、これでもかと絞り出したような作りに、思わずニヤつかずにはいられないだろう。だがそれは同時に弱点としても現れていて、それがもっとも顕著に表れているのは211ページの仗助の過去の回想シーンについての話だ。ここではいきなり作者の視点になるという小説としては掟破りなことをやっている。だが、わざわざこういう書き方をしなくてはいけなかったというのも、また愛ゆえなのだ。

もちろん乙一らしい、じめっとしたストーリーは健在。この本自体がスタンドであるという自己言及的なノリは小説ならではだし、ザ・ハンドの異様に細かな分析も面白い。そのへんが単なるノベライズとは異なるところだ。本という媒体へのこだわりが見られる。

もうひとつの読み所が大量にぶちまけられた小ネタだ。第四部が中心であるものの、さまざまなところからの引用がちりばめられていて、それを探すのも面白い。
まあとにもかくにも乙一吉良吉影と岸部露伴が大好きなことはわかったよ!

余談

ちなみに、この小説自体がザ・ブックによって甦った記憶であるというオチになると予想していたのだが、そうはならなかった。……いや、それであっているのかもしれない。