ルネ・ドマール「類推の山」

至高点を目指して究極の山の頂上を目指す。それはエベレストでもチョモランマでもない、いまだ誰も知らぬ未開の地にそびえる概念の「類推の山」だ。そしてそれは、

自然によってつくられたありのままの人間にとって、その峰は近づきがたく、だがその麓は近づきうるのでなければならない。それは唯一であり、地理学的に実在しているはずだ。

主人公(あるいは人類はと置き換えてもよいかもしれないが)は、そんな山を夢見て論文を書き、共に登頂を試みる同士を募る。そして頂を征することを夢見て、概念の山、不在の山、類推の山へと旅立つのである。

本書はそんなユートピア小説であり、ひとつのイニシエーションの物語であり、哲学的探求の旅である。
残念ながら未完のまま終わっているが、困難と苦痛が伴いながらも終始楽観的希望に満ちた明るさは読む者に救いを与える。本編の後に付されたアイデアメモは小説の覚書というよりは、むしろ哲学的断章に近いのもうなずける。

山という存在あるいは象徴は西洋文明において重要な役割を果たしているようだ。たとえばM・H・ニコルソンは「 暗い山と栄光の山」(未読なんだけど)を書いているし、世界軸(アクシス・ムンディ)としての山という論議は至る所に散見できる。日本にも霊山などという表現があるけれども、キリスト教圏での山の持つ神秘さとはまた違うものだ。そんな神秘さを想像しながら読むことで、一層、主人公達と体験を共にできることだろう。

余談

ソゴル師という登場人物がでてくるが、これはlogosを逆から読んだものである、との説明がある。
ゼーガペインはこれを意識してるのかな。