大橋洋一編「現代批評理論のすべて」

現代批評理論のエッセンスが詰め込まれたハンドブック。
テーマ編、人物編、用語編に分かれていて、それぞれが数ページ程度に凝縮されているので、それなりに知った人にとっては復習に持ってこい。またポケットリファレンスとしても便利な一冊だ。

逆に言うと圧縮度がとても高いので、あまり詳しくない人が読んでもさっぱりわからない内容になっている。
薄い割りにはスケールの幅も広めで、テーマ編ではニュークリティシズムからカルチュラル・スタディーズまで、人物編ではマルクスに始まりバトラー、マラブーまで。おおよそ最先端の所まで押さえてあるところも嬉しい。
これらのテーマについては一通り読破したつもりだったが、特に最近のテーマや批評家については新しく知るところも多くあって大変ためになった。

ただ新しくなるにつれて、純粋な文芸批評というよりは、社会学の方向性が強くなってきていて、それはそれで面白いのかもしれないけど、個人的にはちょっと違うなという気がしてならない。と言うのも精神分析構造主義受容理論などがもっていた天地をひっくり返すような大胆さが、脱構築が登場して以降はなりをひそめ、些末な分析に終始してしまっているように思えてしかたないのだ。これはおそらく時代性と密に結合しているがゆえに起きてしまっていることだと思われる。

あまりに時代性とリンクしてきてしまうと、普遍的な知の探求というものから逸れていっているのではないか?という気がしてならない。自分が批評理論に興味を持っているのは、そういう巨大な潮流を感じていたいからだったのだが、現代社会においては、言説の持つパワーという面からも、実用的な面からも、そういう大風呂敷を広げた論議というのは難しいのかもしれない。

余談

リアル唯野教授とも噂される大橋洋一が監修を勤めているが、氏が書いた「あるリベラル・ヒューマニスト教授の肖像」というコラムが皮肉が効いていて大変面白い。ここで示されている禅問答のような晦渋さが、まさに現代批評理論が抱えている困難さそのものなのだろう。
これを奥が深いと読むか、ただの屁理屈と読むか、それとも単純に笑い飛ばすか。いずれにせよ楽しめなければ、批評理論をの本を読むのはつらいだけだろう。