ウィリアム・パウンドストーン「ライフゲイムの宇宙」

池上高志「動きが生命をつくる」 - モナドの方へライフゲームが大きく扱われていたので、基礎的なところを一度おさえておこうと本書を手に取った。単にライフゲームを取り扱った本ではなく、熱力学モデルを詳細に論じながら、その関係をさぐってゆくという硬派な作りになっている。
なお、本書ではライフゲイムとなっているけど、面倒なのでライフゲームと書くことにする。


ライフゲームは単純な規則に基づいたセルオートマトンである。ルールは以下の三つしかない。

誕生:死んでいるセルの周囲に3つの生きているセルがあれば次の世代では生きる(誕生する)。
維持:生きているセルの周囲に2つか3つの生きているセルがあれば次の世代でも生き残る。
死亡:上以外の場合には次の世代では死ぬ。
ライフゲーム - Wikipedia

しかし、この単純な規則が、実に深遠な世界へ繋がっていることが徐々に明らかになってくる。情報の保存、編集、伝達という観点から見てゆくと、それが見る間に熱力学系と関係があることがわかってくる。このへんの導入が実に上手くて、読ませる。

後半はライフゲームチューリング完全(一般のコンピュータと同等の計算能力を持つこと)であることを証明してゆくなかで、自己複製を行うパターンが存在することが明らかになってくる。このあたりから実世界の宇宙や、生命存在そのものとライフゲームが接近してくることがハッキリとしてくるので、大変にスリリングだ。
特に最後の方で論議される、無限に広い空間に、ランダムにばらまかれたセルがいかなる変貌を遂げる可能性があるだろうか、という問題は非常に興味深い。そこには自己複製パターンや、万能生生成機、あらゆるセルを食い尽くすパターンなどが(確率的には確実に)生まれる。もちろんこれをシミュレートできるコンピュータは物理的に不可能だが、センス・オブ・ワンダーな思考実験に思いを馳せることができるだろう。

またライフゲームを、ひとつのメディアアートとして見ることもできるだろう。
この単純なルールからなる、しかし複雑な様相を見せるセル達に、なぜ我々はライフを感じてしまうのだろうか? ある種の美しさを感じてしまうのだろうか?

ライフゲイムの宇宙
ライフゲイムの宇宙
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ウィリアム・パウンドストーン William Poundstone 有澤 誠
日本評論社 (2003/06/12)
ISBN:4535783837

余談

複雑なパターンになると、実際にライフゲームをやってみないと理解するのは難しい。
ライフゲームのシミュレータはたくさんあるので、適当に遊んでみてください。
http://storm.atnifty.com:10080/LifeGame/index.asp
http://homepage3.nifty.com/puzzlehouse/kg12/kg12.html