アルフレッド・ベスター「ゴーレム100」

幻の奇書と呼ばれていたベスターの作品がついに邦訳された。間違いなく今年一番の問題作。最高にぶっ壊れている。

あらすじは8人の蜜蜂レディたちの集合無意識でできた変幻自在のゴーレム100を巡る物語なんだけど、その妄想世界に突入してからは完全にぶっ飛んでしまう。ダダイズムな絵画やロールシャッハ図形までもが挿入され、読んでいるこっちが頭がおかしくなりそうになる。最後にはフィネガンズ・ウェイクのパロディまで飛び出す始末だ。
奇書といっても、ポストモダン文学とも違うし、ただ技巧を追求したものとも違う。テクニカルな文体と、むちゃくちゃな造語が入り交じり、知的な量子論が飛び出したと思えば、お馬鹿な下ネタが続いたりする。

これは言うなればMAD文学なのだ。
ニコニコ動画に毎日のようにアップされているMAD動画を、巨大スクリーン+大音響で立て続けに見せられているかのような感覚に近いんじゃないかと思う。才能の無駄遣いともとれる超絶テクニックと、読者を眩暈に巻き込む圧倒的カオス。「ゴーレム100」は大変なものを盗んでいきました、あなたのまともな文学観です!というわけである。

この小説がサイバーパンクが登場する以前に書かれていたというのは、驚嘆せざるをえない。ベスターは当時のSF界においてもタイポグラフィにこだわるような実験的な作品を数多く書いた。そして「ゴーレム100」にして、誰も追いつけない彼方まで行ってしまったのである。
そのベスターがTVやラジオの脚本・演出といった、もっとも大衆受けする仕事をしていたというのも興味深い。もちろん、そのエンターテイナーな部分を感じさせる、まともな小説も書いているのだけれども……

というわけで「ゴーレム100」にちょっとでも興味を抱いた人は、本屋でパラパラ立ち読みしてみるといいだろう。赤い表紙にGの文字が目印、絶対に買いたくなるはずだ。

余談1

すばらしい翻訳に、1点だけ無茶な文句をつけてみる。
主役の一人にインドゥニという警察官がいて、調べたところ原文だとInd'dniで予想通り左右対称だった。
とするとカタカナの名前でも対称になるようにすべきだったんじゃないだろうか、そうすれば最後の101というのも、もっと効いただろう。

余談2

物語の舞台は「ガフ」というスラム街。これって「ガフの部屋」のことだと思われる。
どうやら探せば探すだけネタが埋まってるようだ。