ヴィクトル・ペレーヴィン「眠れ」

ヴィクトル・ペレーヴィン「恐怖の兜」 - モナドの方へがあまりに面白かったので、とりあえず全部読むぜという勢いで読み始めたペレーヴィン。本書は短編集「青い火影」から、その半分ほどを訳出した短編集になっている。
本書はロシア国内で発売されてから数日で十万部が売り切れたというので、多少は一般的な内容なのかなと思って読み始めたところ。良い意味で期待を裏切られた。バリバリに変な短編ばっかりなのだ。
初っ端の一話目から主人公がなんと倉庫!というキレっぷり。他にもセカイ系ファンタジーの「世捨て男と六本指」や、小説なのかなんなのかわからない「マルドングたち」など、まともな作品はひとつもない。

個人的に気になったのは「ゴスプランの王子様さま」という作品。コンピュータゲームと官庁システムがごちゃ混ぜになった世界観で、カフカの「城」のようなストーリーといえばよいだろうか。
ここでは世界がPCゲームのインターフェースでできているらしく、すべての行動はキーを叩いて行われる。MS-DOSのプロンプトから始まるあたり時代を感じさせるが、試みは新しい。
さて、読み始めてすぐに気づくのが、この短編が下敷きにしているゲームが「プリンス・オブ・ペルシャ」であるということだ。「ゴスプランの王子様さま」というタイトルからしてそのまんまで、元ネタがわかってないと意味不明な箇所がかなり多くある。例えば、剣を抜いて闘うシーンなど。
他にも「アルカノイド」など色々なゲームが埋め込まれている感じがするんだけど、日本語になってしまっているとどうにも推測しづらい。このへん訳注でフォローして欲しかったところなのだが、訳者がゲームに詳しくないのかノータッチなのである。
世界各国の神話や東洋哲学からゲーム・アニメまで、広範な知識を駆使するペレーヴィンを訳すのは大変だとは思うが、やはりこういう細かい部分まで気を遣って紹介することで、もっと読者層も広がるんじゃないだろうか。