茂木健一郎「プロセス・アイ」

クオリアで有名な脳科学者による処女小説。
ジャンル的には一応、近未来SFということになるかと思われる。

さすがに数多くの著作をものしているだけあって、文章自体は読みやすくわかりやすいのだが、小説は書き慣れていないためか展開を読み取ってゆくのがやや難しい。たとえば視点となる主人公がころころ変わったり、やたらと登場人物がでてきたり、時間と場所が変な飛び方をしたりする。そんなものだから、最後まで主人公が誰かわからなかった、主人公はきっとクオリアだ。
また詰め込みすぎの感があって、本筋にあまり関係のない脇の話が至るところで語られていたりと、ちょっとせわしない。

まあそういう所に目をつぶれば、確かに新しい感じがする小説ではある。最新科学や茂木健一郎自身の仮説を織り交ぜながら展開されるストーリーやギミックは、極めて現実的だ。ただ現実の理論に即している分、用語説明が少ないという問題もある。他の著作に親しんでいる人ならば、ハイハイいつものアレねという感じなのだが、初心者はひっかかるかもしれない。
いずれにせよ、奇妙な読後感で、なんとも評価しずらい。自分自身、物語の因果性をよく理解できていないのかもしれない。そういえば、西垣通の小説「刺客の青い花」を読んだときも、こんな感じだったような気もする。

さまざまな話題が満載のネタ尽くしの本なので、その辺を味わうべきなのだろう。なのだけど、せっかく一線の科学者が書いているのだから、次に書くときは、テーマをバシっと絞ったのが読んでみたいと思った。

余談

オタクはアメリカではギークだが、イギリスではアノラックと言うらしい。