中野美代子「中国人の思考様式」

西遊記個人全訳という偉業をなしとげた中野美代子の中国文化論。
タイトルはちょっとアレで、実際には中国文学論になっている。なので「小説の世界から」というサブタイトルの方が重要なわけ。西洋文化にも造形が深いことでも有名な著者ならではの、東西織り交ぜた視点から小説というものを通した文化論に仕上がっている。
ただし著者は中国文学者ではあるものの、全般的に辛口というか批判的である。

また長い長い中国の文学史をざっくりとわかりやすく紹介してくれるので、初めて中国文学史に触れる人でも安心である。わたしも中国文学は残雪くらいしか読んでなかったが、とりあえず流れ的なものはおさえることができた。

で、時間があまりないので、気になったところだけメモ。
本書中頃、中国における探偵小説の受容という部分がでてくる。ここで著者は探偵小説の本質を説明するのに、ホイジンガの「ホモ・ルーデンス」を引用し、遊戯=虚構性を持ち出す。そして中国では探偵小説は読まれているものの、その遊戯的性質は受け入れられていないようだと批判する。このあたりが中野美代子の持ち味と言えるだろう。
また探偵小説を登山と似ているとも指摘している。登山は、特段、目的もなく山に登る。それだけで楽しいじゃないか、と思われるだろうが、中国人にはそれが理解できないらしいのである。
そして、その後の展開で、中国の政治体制を一種のアンフェアな探偵小説であると切り込んでゆくところは、まさに圧巻だ。

というように中国人の根底に潜む価値観というものに触れることはできる。
もっとも本書は結構古いので、今の民衆意識のようなものはちょっと変わってきてるのかも知れない。読む場合にはそのへんに注意したほうがいいだろう。

余談

  • 探偵小説を中国語では偵探小説と書く
  • ニル・アドミラリという言葉を知った