宇能鴻一郎「べろべろの、母ちゃんは……」

純文学から官能小説まで、芥川賞までとっている異色の作家宇能鴻一郎のなかでも更に異色の短編集。「ふしぎ文学館」本当に不思議である。

タイトルからしてキテるわけだが、内容は更にキテる。とにかく変態。変態のオンパレード。お腹一杯です。
でも官能小説ではない。そういう描写がないわけではないが、もうここまでくると全然エロくない。もっとも身体的な部分よりも精神的な部分に重きを置かれた描写になっているので、そっちでシンクロしないと絶対無理。一応、ワタクシまともですから。

しかし、その精神性の先に仄見える純粋性に心ひかれるところは、誰にでもあるに違いない。言うなれば、
あらゆる文学形式の中で,変態小説だけが与えうる深い感動。そのもっとも純粋なかたちがここにある。
とでも評しましょうか。

ちょっと気になったところをメモ。
「花魁小桜の足」は踏み絵とフェティシズムを上手に融合させた傑作で、思わずなるほどとうなってしまった。たぶん、これの元ネタは芥川龍之介の「南京の基督」なんじゃないかと思う。「南京の基督」もちょっと変態的で素敵な作品だ。

「菜人記」はとにかく残虐で悪魔的な話。陰惨な描写もここに極まるという感じ。主人公はいわゆる非人であり、村の者達から虐げられ犬以下の扱いを受けている。そしてこういう人間は輪の中に入れてもらえるならば、なんでもしてしまうのである。仮にそれが茨の道であっても。
こんなのは昔の因習だと目をつぶるのは簡単だが、こういう構造は形を変えて今も生き続けているのを忘れてはならない。(例えば、いじめられっ子に万引きさせるとか……)

「リソペディオンの呪い」はやっぱりちょっと涙が……ホントこういうのに弱い。
泣きながら一気に読みました。私もこれからこんな恋愛をしてみたいなって思いました。
とはさすがに思いませんでしたが。


というわけで、こんなステキな本を教えてくださったtaipeimonochromeさんに感謝。
http://blog.taipeimonochrome.ddo.jp/wp/markyu/index.php?p=518

ともども、みなさん是非とも「べろ母」をよろしく。

余談

リソペディオンという言葉を初めて知りました。ってググっても全然でてこないし。
気になる人は読んでください。