シオドア・スタージョン「ヴィーナス・プラスX」

なにげに買い揃えている「未来の文学」シリーズの一冊。5冊だから楽ちんだと思っていたら、第二弾が企画されて嬉しい悲鳴をあげている人も少なくないだろう。

実はスタージョンは「人間以上」しか読んだことがなく、「人間以上」を読んだときはそれほどピンとこなかったのだが、本書はかなりキた。キテた。
帯から内容紹介から引用すると、

男が目を覚ましたのは、謎の世界レダム。
そこでは荒唐無稽な建物がそびえ立ち、
奇天烈な服を着た「男でも女でもない」人々が闊歩していた――
孤高にして最高のSF作家、シオドア・スタージョンが放つ
幻のジェンダーユートピアSFの傑作。

ミステリ的な側面もあるので、上記の引用以上の具体的な説明を書けないのが歯がゆいところ。正しくストーリーを説明しようとすると、どうしても真実に触れざるを得ないのだ。それほど精緻にできている。

ストーリー自体はよくできたSFである。それでもあえて奇書と言いたいのは、その構成にある。
通常のストーリーとは別に、本筋とはほとんど関係のない、書かれた当時のアメリカの家庭生活が平行して交互に描かれているのだ。別になにが起こるというわけではない平凡な日常が繰り広げれるのだが、ここでの性の扱いとレダムの性の扱いの対比が面白い。しかも話題が絶妙にシンクロしていて、身に染みいってくる。

また題名の妙、途中に入るジェンダー&宗教論、等々、読み所は多い。SFという枠組みを超えたスタージョン流のジェンダー論を、物語を通して味わうことができる一冊である。