ローレン・スレイター「心は実験できるか」

20世紀に行われた心理学実験にスポットを当てた本。とりあげられているのは以下の10点。

  1. スキナー箱を開けて―スキナーのオペラント条件づけ実験
  2. 権威への服従ミルグラムの電気ショック実験
  3. 患者のふりして病院へ―ローゼンハンの精神医学診断実験
  4. 冷淡な傍観者―ダーリーとラタネの緊急事態介入実験
  5. 理由を求める心―フェスティンガーの認知的不協和実験
  6. 針金の母親を愛せるか―ハーローのサルの愛情実験
  7. ネズミの楽園―アレグザンダーの依存症実験
  8. 思い出された嘘―ロフタスの偽記憶実験
  9. 記憶を保持する脳神経―カンデルの神経強化実験
  10. 脳にメスを入れる―モニスの実験的ロボトミー

実験心理学の本というよりは、著者が10の実験を調査してまとめたエッセイという感じ。著者の主観や感想が入ったり、実際に体験したことが織り込まれていたりと、いわゆる科学的な見地からは離れるものの、それだけに見逃されがちな実験の是非や社会的側面という部分が浮かび上がってくる。

原題はOpening Skinner's Box。「スキナー箱を開けて」は第一章の題名と同じである。
著者が本物のスキナー箱を見たときに、それが黒

扱われている実験は、いわゆる悪名名高いものが多い。その中でも、もっとも一番印象に残るのはミルグラムの実験だろう。ショッキングに書かれているし一番ページも割かれている。
詳しくは、このへんを見ていただきたい。
Passion For The Future: 心は実験できるか―20世紀心理学実験物語

何よりこの実験は、誰もがナチスのような権威に、安易に服従してしまうことを示している。やっていることは大したことないのに、被験者は服従し、(無論サクラの)人間に対して強い電気ショックを与えてしまうのである。
そして被験者は、この実験の真相を告げられたあとも、電気ショックを与えてしまった自分自身を深く悔やむようになる。
本書では、実際の被験者から話を聞き、その影響についても考察してる。単に実験を閉じた視線で批判するのでなく、開かれた状況で包括的に批判しているところが本書の読み所。

心は実験できるのか? ロボトミーに至っては、人間の心はまるでコンピュータのディップスイッチのような扱いだ。よくわらかんけど、このへんをOFFにすると精神病が治るんだ、というノリ。果たして脳科学はそれを明らかにしてくれるのだろうか?

ミルグラムの実験に関しては「服従の心理」を読むことをおすすめする。また、ミルグラムの実験をアレンジした追試で、現実に行われた「監獄実験」を扱った映画「es」も一見の価値あり。

心は実験できるか―20世紀心理学実験物語
ローレン・スレイター Lauren Slater 岩坂 彰
紀伊國屋書店 (2005/08)
ISBN:4314009896

ミルグラムの実験の詳細を知りたい人はこれ。

とっても気分が悪くなる映画。

余談

スキナーの人柄を語っているところで以下のような記述が……

彼はアメリカでも指折りの行動主義者で、寝るときも日本から取り寄せた明るい黄色の立方体の中で眠るような厳格主義者だったが(以下略)

眠るときに入る、日本製の明るい黄色の立方体ってなんですか?