飛鳥部勝則「鏡陥穽」

飛鳥部勝則の初ホラー長編。
わかりやすく言えば、ふえーるミラーのお話で。最終的にはアイデンティティの問題までいきついてしまう。ミステリー的な要素もちょっとだけある。
鏡狂いでもあるボルヘスの話がふんだんに引用されており、形而上学的な鏡の使用法が現実化する恐怖を描いている。
そしてホラーには欠かせない、モンスター的な要素もあって、リアル百頭女(エルンスト)をやってみたかったんじゃないかと思わせるラストだった。
相変わらず登場人物が変態ばかりなので、その辺の狂いっぷりもファンにはたまらないだろう。

ちょっと気になったところ。
主人公の恋人が幽霊が見えるという能力があるのだが、一応ストーリーでは重要な役割をはたすものの、これはなくてもよかったような。超自然の要素はひとつにしといたほうがフィクションとしての純度があがる。色々な要素を持ち込むと面白いことは面白いけど、すぐ熱しやすく冷めやすい状態になってしまうと思う。

また飛鳥部勝則といえば絵。今回は本人の絵は載っておらず、稲垣考二の絵が表紙を含めて四点使われている。内容と非常にリンクしているのだが、絵にインスパイアされたわけではなく、後付けだそうだ。中でも冒頭で主人公が眺める「床」という絵がとってもマン・イン・ザ・ミラーなので、冒頭の絵だけでも覗いてみると面白いかも。

ラストにでてくる飛鳥部勝則の絵は本に載っていないので、ここでチェック。
http://www.max.hi-ho.ne.jp/s3k1/a/tenjisitu.html

鏡陥穽
鏡陥穽
posted with amazlet on 05.11.06
飛鳥部 勝則
文藝春秋 (2005/07/12)
ISBN:4163241108