三浦俊彦「ラッセルのパラドクス」

ラッセルというと、ヴィトゲンシュタインの「論理哲学論考」の序文や、フレーゲ集合論パラドックスを発見したことで有名である。本書ではもちろんそれらにも触れられるが、タイトルにある通り、主人公はあくまでラッセルだ。
ラッセルの入門書ってのは、あんまり聞かない。それも論理学という精密な学問を、わかりやすく解説しながらとなると皆無だ。

個人的には、ラッセルの「5分前世界誕生仮説」や「プリンキピア・マテマティカ」が気にはなっていたので、手に取った次第。「プリンキピア・マテマティカ」といえば1+1=2が証明されるまでに500ページ以上かかるという本だ、というイメージくらいしかなかったのだが、ラッセルが試行錯誤しながら改訂していたということが本書を読んでわかった。

論理学は些細なパラドックス、わずかな傷が論理体系全体を汚染してしまうので、絶対に間違いのない公理に基づいていなければならない。ラッセルは完全無欠な論理体系を求めて、さまざまに態度を変えていった。
「この犬は、吠える」と「犬は、吠える」との違いが、ラッセルの考え方の変遷と共に、どちらがどういう意味で正しく、または間違っているのか、詳細に解説される。そして普遍と個別の対立の果てに、いわゆる真理を記述するための理想的な言語が、最終的には私的言語になってしまうという驚きの結論に達してしまう。

論理学というのは数学のもとであり、タイプ理論に見られるように高度に構築的だ。(当然、出所は一緒でもある)関数プログラミングとかに興味のある人は、読むといいかもしれない。