阿部日奈子「典雅ないきどおり」「海曜日の女たち」
夢にまで出てきてしまったので、書かねばなるまい。
高山宏の著作のエピグラフとしてその詩が使われていたのが出会いで、何編か読んでいるうちに大ファンになってしまった。それから代表作「典雅ないきどおり」を必死になって探した思い出が、今となっては懐かしい。(某大学までコピーしに行ったり)
なにをしてそんなに夢中にさせるのかというと、言語のセンスがとにかく抜けている! キテる! たまらない感じ。
ちょっと引用してみる。
「典雅ないきどおり」収録の「キャロル式三段論法十番勝負――『記号論理学補遺』――」より
E ハンバート論法
1 rapistsの therapists に関する大学町の噂は、いずれも三段論法では結論が導けない。
2 大学町の噂のうち根も葉もないものは、どれも揣摩憶測をたくましくするだけの面白味に欠ける。
3 町の瓦版「早飛脚」の三面は、強姦魔のセラピストに関する噂で埋めつくされている。
4 揣摩憶測をたくましくするだけの面白味のあるものを除き、大学町の噂はすべて三段論法でかたがつく。
5 信憑性のある噂となると、うちの召使ハンバート・ハンバートが出入りの帽子屋から仕入れたものだけだ。∴大学町の瓦版「早飛脚」は、ハンバート・ハンバートが帽子屋から聞き出した噂を三面に満載している。
言語錬金術ならびに秘教的組み合わせ術な単語の選定。フレーズの妙。
「ラブひな」が流行っている頃、さかんに「アベひな」を広めていたのは、今となっては良い思い出である。
阿部日奈子の詩は、恐らく既成概念として抱いているであろう詩とはかなり異なる。いわゆる詩にありがちな、しみじみ情感に訴えるという感じではなく、精密な機械装置を眺めているような快楽が阿部日奈子の詩からは伝わってくるのだ。
「典雅ないきどおり」は絶版で入手困難なのだが、文句なく最高なので古本サイトをチェックしてゲットしましょう。
今入手できるのはこちらだけ。
「典雅ないきどおり」に比べるとパワーダウンは否めないが、フレーズの妙は楽しめる。
余談
阿部日奈子の趣味はセーター編み。あるときから画家をテーマにした手編みセーターを作り始めたそうだ。
記念すべき第一回はクルト・シュビッタース。初っぱなから飛ばしてます。
他にはエッシャーやらフランシス・ベーコンやら。一着欲しいなぁ特にフランシス・ベーコンのセーター。
今さら気がついたこと
「典雅ないきどおり」の「産褥熱」が残雪リスペクトだった。
リンク
独身者の求愛と遊戯の規則 阿部日奈子論
→http://www.asahi-net.or.jp/~ae7h-kbys/aabe.html