ロジャー・ペンローズ「ペンローズの量子脳理論」

イギリスの天才物理学者・数学者のペンローズによる量子論と意識との関わりを論じた本である。とはいってもがっちりペンローズの著作というわけではなく、インタビューや小論文のアンソロジーのような構成で、竹内薫茂木健一郎の両名の解説も読み応えがあって熱い。
位置づけとしては「皇帝の新しい心」「心の影」の補足と解説のようなものだと思えばよいだろう。

実はペンローズのいわゆる「量子脳理論」の本は、いかにもうさんくさくて読む気がしなかったが、読んでみたら意外に悪くなかった。それは訳者・解説者の両名がペンローズにはリスペクトしながらも、量子脳理論の根幹であるマイクロ・チューブル説については極めて懐疑的な立場から書いていて、バランスがとれていたからだろう。小ネタやコラムも面白かったし。

茂木健一郎の「ペンローズとの会遇」では、せっかくペンローズに会ってるのに周りの連中がくだらねー質問ばかりしているのにぶち切れそうになっていたりしていて、ほほえましい。真面目な話で興味深かったのは、ペンローズ理論の解説部分で、フェルマー最終定理を引きながら、こう語っている部分だ。

100年たっても正しいか正しくないかわからない嘘は、研究活動を推進し、時には全く新しい一つの分野を切り開いてしまうことがある

ペンローズ理論が間違った仮説であっても重要なんじゃないか、と擁護しているわけだ。そんなマイクロ・チューブルに関する量子論と意識の話と、もうひとつ重要なのは「皇帝の新しい心」で語られた人工知能批判、つまり人間とコンピュータは根本的に違うんだという話だ。ペンローズの論旨はこうである。

  1. コンピュータには、計算可能なプロセスしか実行できない(事実)
  2. 意識は、計算不可能なプロセスが実行できる(不完全性定理から導き出したペンローズの理論)
  3. したがって、意識は、コンピュータ以上のことができる(三段論法の結論)

というわけだ。
「皇帝の新しい心」を発表したために、強いAI仮説の立場をとる陣営から痛烈な批判をうけたわけだが、それら批判と、批判に対する回答などが本書では語られており、人工知能に興味がある人には見逃せない内容になっている。

「皇帝の新しい心」が難しかったよーという人は、本書で論旨を点検するのも悪くないだろう。
それにしてもタイトルが悪いね。「皇帝の新しい心」「心の影」みたいな系譜で、硬派だけどウィットに富んだネーミングの方が手に取りやすいと思うんだけど。

あと、ものすごくどうでもいい話なのだが、ヨン様も出てきます。(99ページ)

論争を巻き起こした問題作。人間の意識は計算不可能か!?