グレッグ・イーガン「ディアスポラ」

すごいなあイーガンは、もうスゴイとしか言いようがない!
イーガンの長編といえば毎回そのスケールの大きさに驚かされるが、今回は最初からとんでもないスケールで始まるうえに、最後は想像を絶するところまでいってしまう。

解説あるように、しょっぱな第一章は確かに難解であるものの、「攻殻機動隊」のオープニングをイメージしつつ読めば、アルゴリズム的な世界観に没入(移入)できるだろう。
仮想現実の世界になったり、現実世界になったり、高次元時空の世界になったりと、理論はともかく脳内イメージを上手く切り替えて読まないと、わけがわからなくなる。タイムスケールも飛びまくりなので、章が変わったときは要注意。

そして次々と繰り出される理論は、かなり難解で、SFを読み慣れてる人や、数学や物理学がバリバリの人でもすんなり了解するのはキツイと思われる。
でも、ご安心。理論はなんとなくでもストーリーはわかるようになっている。それに本書の理論を完璧に理解している人はおそらくイーガン一人しかいないだろうから。

何にせよラストシーンは圧巻だ。帯に嘘はないので、とにかく読むべし。世界観が変わります。
確かにSFじゃないと、こんなことできないよ。


後書きにもありますが、読後はディアスポラ数理研 - JGeek Logをチェックしましょう。


文系とか理系とか

ハードSFは最前線の科学的理論が組み込まれていて、理系でないと……みたいな話になりがちである。
しかし、少なくともイーガンを前に文系とか理系とかは些末な問題だ。(イーガンを前にしなくても文系とか理系なんて区分は些末な問題だけれども)
イーガン(やテッド・チャン)が指向しているのは、むしろボルヘス的な世界観だろう。建築材料として数学や物理学のアイデアを使っているものの、単なるおとぎ話や奇想にとどまらず、近現代哲学がやってきた仕事に近い。
即物的な世界から人間精神を通してプラトン的世界へとアクセスを試みる、そういう精神活動の系譜があることを忘れてはならない。

余談

イーガンといえば、妙に凝った固有名詞が特徴的だ、スウィフトとかヴォルテールなどがでてきてニヤリとさせられる。
でも人名がイノシロウとかヤチマとかで、どうにも馴染めないんですよね。