茂木健一郎「脳と仮想」

サンタクロースは存在するか?という素朴な疑問、実はこれが重要な問題なんだというのが本書の趣旨である。「脳と仮想」というタイトルだが、「仮想」がバーチャルでなくイマジネーションであることがポイントだ。
すべてが脳内現象であるならば、すべては仮想である。すべてが仮想であるならば、我々がいわゆる現実だと思っているものと、空想の産物であるものとに差はない。我々に立ち上がる様々な仮想をひもといてゆくのが、本書の眼目である。

小林秀雄賞を受賞しただけあって、小林秀雄と脳内現象との関わりから始まり、その響きが静かな余韻となって残り続ける。そのためか科学的というよりは、(島田雅彦のコピー通り)あまりに文学的だ。

これまで読んできた甲斐あって、基本的には既知の事実が多かったものの、整理され精密に論議されているため、様々な箇所で感銘を受けた。

我々は仮想と現実の両方を生きている。制約が多い現実に比べれば、仮想の世界は無限大だ。アートや文学などは無限に広がる仮想の世界を刺戟するものだ。ただそこに(現実の)生の切実さがともなっていなければならないと語る。
実はこの「生の切実さ」が茂木健一郎の隠れたキーワードになっている。一見簡単に理解できそうな「切実さ」であるが、私自身、実はよくわかっていない。それは自分にとっての切実さがわかっていないからなのかもしれない。これに関しては慎重に考えていきたいと思っている。

さて本書にあって他の著書では見られない記述がゲームに関することだ。もちろん単純に否定も肯定もする内容ではない。
茂木健一郎はゲームをやっているとき起こる現象(フェノメノン)が自分にとって新鮮なものであったと語っている。そしてゲームという新たなメディアが、新たな仮想の世界を探求するすべとなることを説明する。もちろんこれはゲームでなくとも新しいメディアならば共通して仕える論法だろう。
ちなみに本書で言及されているのは「スーパーマリオブラザーズ」と「ゼルダの伝説 時のオカリナ」。そして後者をRPGの名作と絶賛している。

あと音声を消して、ワーグナーをかけながらマリオをやると不思議な感慨がわき起こってくる、なんてことも書いている。マリオという視覚とワーグナーという聴覚のモダリティの融合が面白いということなのだろう。
さあ皆さんも、レッツトライ。

脳と仮想
脳と仮想
posted with amazlet on 05.10.02
茂木 健一郎
新潮社 (2004/09/22)
ISBN:4104702013

これで茂木健一郎単独の著作は制覇。