リチャード・ファインマン「ファインマンさんベストエッセイ」

言わずと知れたノーベル賞科学者ファインマンのエッセイ集。
ベストと言っても、CDのベスト盤のようなものではなく、ほとんどが初訳のものである。またエッセイ集と言っても、講演やインタビューなども多い。

ファインマンのエッセイといえば「ご冗談でしょう、ファインマンさん」が有名だ。これを読めば、ファインマンが科学者としてだけではなく人間としてとても魅力的であることがよくわかる。
知らない人は松岡正剛の評が参考になります。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0284.html

本書に含まれる「未来の計算機」は、コンピュータを可逆計算にすれば理論上電力消費をゼロに近づけることができるという講演録であり、ちょっと専門的だ。もうひとつ「チャレンジャー号の事故報告書」は、「困ります、ファインマンさん」に収録されている「ファインマン氏、ワシントンに行く」の補足であり、これだけ読んでもピンとこないだろう。
それ以外は誰でも安心して楽しめる内容になっている。

普通のエッセイに通底しているのは、科学者から見た人文科学や宗教についてである。ちょっと引っかかったのは哲学について語る部分。ファインマンは比較的柔らかい考え方の持ち主だが、科学と同じ姿勢で哲学や宗教を見ているような気がしてならない。
(同じリチャードの)ドーキンスにしてもエセ科学や、浅薄な宗教、わけのわからんポストモダン哲学を批判し始めると、十把一絡げとばかりに真面目に取り組んでいる部分まで批判してしまうところがある。確かドーキンスはファンタジックなごまかしがあるという観点からX-Fileや指輪物語まで叩いていた。そこまで徹底しなくてもいいじゃん、と冷静に思う。

ファインマンも本書でスピノザのエチカを叩いている。

やれ属性だ、実質だと、てんで無意味なゴタクが並んでる。

ってな具合だ。こんなのは無意味だという批判だが、最新科学だって哲学的な問題になにひとつ答えられないのだから、実質的意味ではどっこいどっこいだろう。哲学には哲学のやり方があるわけだし、躍起になる必要はない。

科学はポパーの言う反駁可能性ゆえにリベラルだが、科学者の態度によっては世界観を狭量にしてしまいかねない。バリバリの(従来の)科学主義ってだけでは、開拓できない道があると思うのだ。


初めての人はこっちからどうぞ。

まずはここから。

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉
リチャード P. ファインマン Richard P. Feynman 大貫昌子
岩波書店 (2000/01)
売り上げランキング: 4,303

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉
リチャード P. ファインマン Richard P. Feynman 大貫昌子
岩波書店 (2000/01)
売り上げランキング: 6,051

ついでに、こちらも。

困ります、ファインマンさん
R.P. ファインマン Richard P. Feynman 大貫昌子
岩波書店 (2001/01)
売り上げランキング: 7,793