飛鳥部勝則「誰のための綾織」

自作の絵と、図像学がらみの絵画うんちくがちりばめられた作品が多い、ミステリ作家もといミステリー作家*1。ここ最近は自作の絵が載っていなかったが、本書は記念すべき十作目ということで復活したそうだ。

困ったことに、何か書こうとするとネタバレになってしまいそうなので、あきらめて書かないことにする。書かないぞ!

プロローグから始まる推理小説談義で、さりげなく京極夏彦のアノ小説にも言及していたり、これから挑戦する概要を語ったり、いきなりハードルを上げている。それがどういう結果を生んでいるか、それはエピローグまで読むと明かされる。

飛鳥部勝則の小説といえば、イイ奴だろうが悪党だろうが、じいさんだろうが女子高生だろうが、みんな異常に偏った知識の持ち主であるということ。そして壊れっぷりもすごい。
人物造作が異常なので、ストーリーが異常でも全然違和感がない。今回は逆にその違和感のなさに、まんまと欺かれてしまった。トリックを解く鍵は、あけすけに披露されているので、冷静になれば絶対に気づきそうなモノなのなのに……
気づかないまま最後の最後でやられてしまった。

と感動しているのもつかの間、読了後にAmazonを見ていたら、盗作疑惑があるとのことである。どうやら三原順の「はみだしっ子」のセリフをまるまる流用しているらしい。ミステリのコアに関わる部分ではなく、台詞というか部分のエピソードが該当するようだ。
ネットというのは恐ろしいモノで、ちょっとでも盗作疑惑があると、一瞬で広まり隅から隅までつつかれる。ひと昔前だったら、一介の読者がこういった状況を知ることはなかっただろう。

私自身は剽窃はどんどんやるべきだと思っている方なので、これで本書の価値が落ちるなどとはまったく感じない。むしろ、おかげで三原順の「はみだしっ子」を読んでみたくなったくらいだ。それに、まわりがあまり熱くなるものどうかという気もする。
別にいいじゃないか、小説なんてオープンソースなんだし。

*1:なぜミステリでなくミステリーなのかは読んで確認してください